知識がつながる瞬間

以前、Eさんという生徒がいた。英語が得意なのだが、数学が苦手だった。中1の頃から数学のテストが返却されるたびに「数学は苦手だから」と悪びれずほほ笑むのだ。数学の点が悪くても平気でいられるタイプだった。ところがEさん、中3の夏に「何が何でも数学を得意に!」と一念発起した。

中3の2学期中間テスト前に「Eさん、『今回は数学苦手だから』はダメだよ」と声をかけた私に「えっ、私、数学得意ですよ」とほほ笑む。聞けば、夏休みに1冊の数学の問題集を3周したそうだ。「わからないところはテキストと解説を何度も読んで、何度も解いてみたの。そしたらね、『あっ』って思って(本人の表現のママ)。もう、解けない問題ないですよ」と。

中間テストで数学は初めての90点台。「ね、先生。私、数学得意ですよ」とまたほほ笑んだ。

Eさんが「『あっ』と思った」のは、それまでに貯めに貯めてきた知識が1つに繋がった瞬間だ。

私も学生の時に覚えがある。

私がまだ学生だった時(どれくらい前かは…ないしょです)、女子の就職はまだまだ難しい時代だった。少しでも就活で有利になる資格を得ようと、いろいろな検定に挑戦していた。(結果、履歴書の資格欄に書ききれないほどの資格を得た) その中で、会計でもアピールできるようにと簿記2級を狙っていた。就活から逆算するとチャンスは1回のみ。しかし、どんなに問題を解いても思ったほど正答できない。

私の家は両親が離婚して、母親だけだったこともあり、あまり裕福ではなかった。そのため学費はなんとか親が出してくれたが、ふだんの生活費や交通費、教科書代などは自分のバイトで賄わなければならなかった。そのため、毎日学校帰りや日曜日もバイトをしなければならなかった。(当時は時給がとても安かった。だから現在の最低賃金には驚くし、当時その時給だったら、あんなにバイトをしなくてすんだはずだ)しかも通学時間が片道2時間もかかる。

私の学生時代の勉強部屋は電車の中だった。

普段は英検などの対策用の単語集、用語集の暗記が主だったが、そのときは電卓を片手にタンタカ叩きながら問題集に取り組んでいた。でも、正答を出せない。悔しくても、何が間違って答えが合わないのかさえ、よくわからない。苦しかった。

検定日は日一日と迫ってくる。焦る。でも解けない。貴重なバイト代から検定料を払ったし、履歴書にハクをつけるためには合格したい。そんな気持ちだった。

検定試験の2週間ほど前。その日も問題に取り組んだ。取り組み始めてしばらくすると目の前がパッと明るくなったような気がした。次の瞬間、「ああそうだったのか」とすべての答えがつながったのだ。貯めに貯めた知識が1つになった瞬間だ。それ以降、過去問もほぼ全て解けるようになった。

こういう経験は、何かを我慢して続けない限り味わうことはできないだろう。

辛く苦しかった分、自信につながったし、そのおかげか、就活も受けた会社は全て内定がもらえた。

この経験があるから、生徒にも学習がなかなか結果が出ずに苦しくても続けてほしいと思っている。

受験や就活だけではない。今も学習道場で辛く苦しんでいる生徒もいる。でも、その先に自信につながる経験ができるかもしれない。そんな期待を込めて、がんばってほしいと思っている。