ピアノのおけいこ

小学校1年生の4月、私はピアノを習い始めた。私が通っていた幼稚園の先生が寿退社して、自宅で始めたピアノ教室だった。

最初は教本についている紙の鍵盤で練習をした。家に本物のピアノが来たのはそれから3ヶ月くらい経ってからだった。

ピアノの上に置かれた赤い服のフランス人形、「紙の鍵盤と本物は違うから」という母の言葉。今でもよく覚えている。

どういう事情かはわからないが、小4の時にピアノ教室が変わった。

新しい教室での初めてのレッスンの時に、ピアノに向かうときの小指がまっすぐになってしまうことを「おかしい」と指摘された。直すようにと言われた。

以前、育児漫画に子供にピアノを習わせるシーンがあった。その時にピアノの先生がその子に「お星さまをあげますね。ピアノに手を置くときは手のひらにお星さまがあるからそれをつぶさないように手を丸くしましょう」と言っている。子供がまるい手にしようとして手がつりそうになる。

その漫画通り、ピアノを弾くときは手をまるくし、指先が鍵盤を押すのだが、私はこの丸い手がきちんとできていなかったのだ。このことがきちんとできないので、ピアノを弾く時に小指のリズムが遅れていると何度も注意された。

当時先生に言われたから、なんとか直そうと必死にがんばった。でも、3年以上もその手の形で弾いて、指の形が自分の中に癖づいてしまっている。それを直すのはそんな容易ではなかった。完璧には直らなかった。今でも油断すると、小指がピンとまっすぐになってしまう。

最初に通っていた教室では練習をしないままレッスンにいっても「いいわね」と褒められた。つっかえながら弾いても先に進むことができたりもした。だから、ピアノを買ってはもらったけれど、私のピアノは私の気まぐれにしか弾かれることはなかった。

親にも「練習しなさい」と言われることはなかった。『ピアノを習わせる』『ピアノを購入する』ことで満足していたように感じる。

このことは私を「ピアノなんて簡単」と思わせた。当時ピアノを習っている友達が何人かいたが、ピアノの前に座っている時間が一番短かったのが私だった。

ところが、教室を変わるとレッスンをしてこなかったことがなぜか先生にばれてしまい、叱られる。「きちんと練習をしてこなければいけません」と、何度叱られたことか。

ピアノのおけいこは受験等で途中お休みしたりしたが、高校2年生までは続けた。だが、そんなに上手に弾くことはできないし、同じ頃までピアノを習った幼馴染の中で私が一番下手だった。

私のピアノのおけいこには、学習と重なることがたくさんある。

これから何回かにわたって、書いてみたいと思う。