ピアノのおけいこと学習 その3

「私は、中学生になってからピアノが原因でコンプレックスを抱いたり、辛い思いをすることになった。当時は「練習しなかったこと」等が原因だとは思わなかったので、「なぜ、私はダメなのだろう」と思っていた。」

このことについて書いてみたいと思う。

中学生になって初めての音楽の授業の後、音楽の先生に「ピアノを習っている人は教室に残ってください。」と言われた。毎回の授業の際にピアノの伴奏をしてくれる人が何人か必要だと言う。一人ひとりに「今、習っている教本とその曲番か、題名」を聞いていった。その場には7~8人の生徒がいた。

私の教本の進度はその中で3番目だった。そして、その3番目までが、一曲ずつ楽譜をもらい、曲の伴奏者となった。当時、ピアノを習っている人にとっては、授業や行事で伴奏ができることは憧れだった。だから、私はとてもうれしかった。選ばれなかった友だちが「いいなあ」と言っていたのを覚えている。

3番目なので、一番簡単な伴奏だった。ちょっと家で弾いてみると滑り出しは順調。「これなら大丈夫」と思っていたら、歌が終わった後の最後締めの2小節の楽譜が複雑で難しく見える。どう弾いたらいいのか、わからない。「あら?」とは思ったが、練習嫌いだった私は「まっ、いいか。みんなが歌うところは弾けるのだから」とそれ以上の練習はしなかった。

始めて授業で伴奏した時、みんなが歌い終わるまでは順調だった。が、最後の2小節前で私は演奏をやめた。その瞬間、先生の顔が曇ったことに私は気づいた。授業後に、次までには最後まで弾けるよう練習することを言い渡された。

でも、練習しようとしても、楽譜が複雑でどう弾いたらいいのか、わからない。以前は練習していなくても、きちんと弾けていなくても、先に進めていたから実力以上に教本は先に進んでいた。しかし、教室を変わって以降は自分の実力がないことが分かり、練習をする癖がまだ身についていないから遅々として進まなくなっていた。

学校の先生は「教本と曲名」から私の実力を本当の力よりも上だと判断されたのだ。ここまで進んでいるのならこれくらいは弾けると学校の先生が判断されても不思議ではない。

でも練習しようにも何をどうしたらいいのかがわからない。「今日こそは」とは思うのだが、すぐに挫折してしまう。ピアノの先生に相談したら厳しいことを言われるかもしれないと思うと、相談もできなかった。私は面倒な練習から逃げたのだ。

その後、3ヶ月くらいは新しい曲を授業で学ぶ前に先生に選ばれた私たち3人は楽譜を渡され、オーディションをされた。最初の曲でつまずいた私は「どうせ私には弾けない」と思い、練習には身が入らなかった。かろうじて最初の数小節だけを練習して、「(今はまだ)ここまでしか弾けません。」と言った。3ヶ月もたつと、楽譜を渡される場に私が呼ばれることはなくなった。

呼ばれなくなったことで「私はどうしてこんなにだめなのだろう」と自分を責めた。弾けないのがなぜなのか、学校の先生の「(それくらい教本が進んでいるのなら)これくらい簡単でしょう?」との言葉も私のコンプレックスを刺激した。呼ばれないことに意識を向けないようにした。先生が2人に楽譜を渡すところも見ないようにした。

その後、ピアノの先生のお母さんの話を聞いて、練習をするようにはなっていったが、1度「難しい」と思ってしまったことで、自分で壁を高くしてしまった。無理だと思い込んでしまった。

中2で音楽の先生が変わったが、相変わらず伴奏を依頼されることはなかった。2年になるとその曲を授業で歌うことはなくなっていた。

中3の受験が終わり、卒業式まであと1ヶ月になるころ、音楽の先生に呼ばれた。あの最後の2小節を弾かない曲を卒業式で歌うから、伴奏の練習をしておくようにと言われた。その頃にはピアノの練習にも慣れて来ていたので、もう1度楽譜と向き合ってみようと思った。でもわかりにくい。それで、楽譜にリズムを書き込んで、右と左の音符をどう弾けばいいのか、線でつないだりしてみた。右手、左手それぞれをリズムに合わせて滑らかに弾けるまで練習してみた。何とか弾けるようになった。ゆっくりとしたテンポで両手で弾いてみた。弾けた!テンポを少しずつ速めていった。弾ける!やってみたら、ものすごく簡単だった。見た目の音符の複雑さに惑わされただけだったのだと気づいた。こんなに簡単ならもっと早くに練習すればよかったと心の底から思った。

学習も同じだと思う。「1つの分からないことがきっかけですべてを難しく感じてしまう」。あるいは「自分には無理だと思い込んでしまう」のは、学習を苦手とする子にはよくあることだと思う。そういう時はそのわからないところまで戻って学習することが一番だと思う。解いてみれば案外簡単なことを自分の「難しいのではないか」という心のフィルターがそれを曇らせてしまって、私のように実際以上に難しく思い、あきらめてしまう。

そういう場合、「あ、こういうことだったのか」と腑に落ちれば、案外その先はスムーズにいくことも多い。

たった1曲の伴奏を弾けるようになるまでに3年もかかってしまった。曲名を書くとピアノを弾く方からはこんな簡単な曲でそんな思いをするの?と思われるような曲で。しかも自分で自分の首を絞め、コンプレックスに陥り、苦しんだり、逃げたりした。そのことにより、苦手意識を持ってしまった。「自分には無理」と決めつけてしまった。今でも「もっと早くに取り組めばよかっただけなのに」と思う。だが、逃げに入っている時はそれを実行するのは難しいのだということを実体験しているので、学習を苦手としている子の気持ちはよくわかる。

ある生徒が授業の反省欄に「やってみたら案外簡単だったから、もっと練習していきたい」と書いていた。この気持ちが持てれば、できるようになっていく。