成績にこだわる理由 その1
ある年の秋の終わりに久しぶりに見る顔がやってきた。
卒塾生である高校3年生のその子は、大学の公募推薦の小論文が書けないから教えてほしいと言う。聞けば、高校の先生に相談したら、過去の小論文から先生が見本で書いてくださった文を参考に練習するように言われたらしい。しかし、先生が書いてくれたようには書けないので困ってしまい、塾に相談しようと思ったそうだ。
空き時間に見ることにした。
小論文を書くには高校生として必要な知識はもちろん、志望する学部によって高校生で理解できる範囲内の専門知識も必要だ。
会話から知識を引き出そうとするが、残念ながらその子の知識はあまりにも少なかった。
「高校生になってから何を学んできたの」思わず厳しい言葉を投げかけてしまった。
高校入学後に普通に学んでいればつくはずの知識がほとんどない。
何も知識のないところで、小論文を書ける訳がないのだ。単語さえ出てこない。
話を聞くと、高校生になってからバイトをするようになり、家庭学習の時間が減ったそうだ。
バイトをすれば、お金が手に入る。バイトに魅力を感じた。
すると学校の授業で「わからないこと」が増えてきた。
そうすると学校の授業がどんどん分からなくなってくる。
「わからないからしかたがない」と言い訳をして、家庭学習をしなくなっていったと言う。
入試日まで1ヶ月を切っていた。
普通だったら到底無理だと思われたが、幸い中学生の時にはある程度、家庭学習が身についている子だったので、大量の課題を出し、できるだけの知識を身につけさせることにした。
そのうえで、面談指導を重ね、知識を確認し、志望する学部が求めている人物像を本人がつかめるように指導した。小論文もそれらを元にだいぶ書けるようになった。
それからしばらくして、「合格した」と満面の笑みで報告に来てくれた。
「よかった」と思うと同時に、大学入学後のことが心配になった。
今回のことを反省して、高校を卒業するまでも、大学に入学してからも日々学習するように話をした。