カラス

夕方、カラスの鳴き声が塾内にいてもわかるくらい激しかった。

どうしたのだろうと外を見ると、ヒナ鳥が初めて飛ぶ練習をしているところだった。そのヒナを親ガラスが見守っているのだが、別なカラスがそのヒナを狙っている。ヒナを狙って襲おうとすると、親ガラスがヒナを守ろうと戦っているのだった。

ちょうど4年前、同じようなことがあった。

その時は襲われたヒナ鳥が用水路に落ちてしまい、そのまま這い出ることができなくなった。それを見てパニックになった親ガラスは、ヒナを守ろうとして用水路の近くを通る人を次々に襲いだした。頭をつつかれてけがをした人も何人かいた。ちょうど小中学生の下校の時間と重なり、人通りも多く、周囲は危険な状態になってしまった。

心配して、用水路の周りで異様な声で鳴くカラス。

駆けつけた市の職員の方が状況を判断して、通行人にこれ以上の被害を出さないためにヒナ鳥を捕獲することになった。

私は職員の方から「傘でカラスの攻撃を防ぐ」と聞き、下校中の子供たちに傘をさし出し、道を何度か往復した。

ヒナが捕獲され、トラックに載せられるまで、親ガラスがヒナを捕られまいと抵抗する様子は、親として気持ちがわかるような気がして、胸が締め付けられた。

その後、ヒナがいなくなっても日が暮れるまで親ガラスは子供を探し、鳴き続けていた。

カラスも人間同様に我が子を思う気持ちがあるのだとカラスの親子の情に少し感動した。

しかし、野生の生き物は切り替えが早い。翌日以降はヒナ鳥のことは忘れたようだった。そうでなければ、生きていけないから仕方がないと思う。生きていくということは大変だと感じた。

今日の鳴き声とシチュエーションが当時と同じだったので、思い出した。

ヒナ鳥は無事に初飛行ができた様子で、日が暮れる頃にはいつもの静けさが戻ってきた。

傘を差さずに済んでよかった。